子どもの叱り方に迷う保育士へ|「怒る」と「叱る」の違いと、伝わる言い方
以前担任していた3歳児クラスで、私は一日中怒っていた季節があります。朝の支度から帰りの会まで、自分の声が常に大きい。家に着くと喉が痛くて、夕飯の味がしませんでした。
ある夜、その日の自分を頭の中で再生してみました。怒っていたとき、私は子どもに「次にどうすればいいか」を一度も渡していませんでした。「やめなさい」「ダメでしょ」だけで、その後の行動を子どもの中に置いていなかったのです。怒っていた相手は子どもではなく、伝え方を持っていなかった自分自身だった、と気づきました。
この記事は、「今日も叱り方を間違えた気がする」と帰り道で胸が重くなっているあなたに向けて書きます。怒鳴る量を減らすのではなく、叱るという行為そのものを少し分解する話です。
3歳児クラスで、私が一日中怒っていた季節の話
当時の私は、子どもが動かないことを「自分の指導力不足」だと思い込んでいました。だから声を大きくしました。声を大きくして動いた子がいると、それが「正解」のように見えてしまい、翌日もまた声を張りました。
けれど、私の声で動いた子は、私の顔色を見て動いていただけでした。私がいない時間、その子たちは別の保育士の前ではまったく違う表情をしていたと、後から同僚に教えられました。
私が怒っていたあいだ、子どもは何も学んでいなかった。それが、その夜にいちばん堪えた気づきでした。叱り方を考え直したのは、その日からです。
「怒る」と「叱る」の本当の違い
言葉として似ているので普段は混ぜて使いますが、現場で起きていることはまったく別物です。3層に分けて整理します。
- 怒る:主語が大人。大人の感情を相手にぶつける行為
- 叱る:主語が子ども。子どもの次の行動を導くために言葉を渡す行為
- 伝える:叱る前段階。注意ではなく、事実と次の見通しを淡々と渡すこと
怒るは、大人が我慢の限界を超えたときに出ます。子どもに向かっているように見えて、実際は自分の感情の発散です。叱るは、その逆です。怒りを一度脇に置いて、「いま子どもの中に何を残したいか」を考えてから言葉を選びます。
叱る前にできるのが「伝える」です。「ブロックは口に入れないよ」「いま、滑り台は逆から登っているよ」のように、起きている事実と次の行動を、声色を変えずに渡すだけ。これで動く場面が、現場の半分くらいはあります。
怒ると叱るの違いは、声の大きさではなく主語にあります。「私の怒りを収めるため」に発した言葉なのか、「子どもが次に動けるよう」に渡した言葉なのか。出す前に一度自問するだけで、同じ場面の関わりが変わります。
保育士が伝わる叱り方の3つの型
叱るときに使える型を3つに絞ります。育児書ではなく、保育士の集団保育の場で機能する型として書きます。
型1. 行動を限定する
「ダメ」「やめなさい」だけで止めると、子どもは「何をすればいいのか」が分からないまま立ち尽くします。代わりに、次に取ってほしい行動を1つだけ言葉にします。
- 1〜2歳児:「ブロックは箱に入れようね」(指差しを添える)
- 3〜4歳児:「順番を待ってね。次はあなたの番だよ」
- 5歳児:「お友達が使い終わるまで、こっちのコーナーで遊んで待っていてね」
禁止語を1つ言う代わりに、次の行動を1つ渡す。叱る回数が同じでも、子どもの中に残るものがまったく変わります。
型2. 理由を1秒添える
「並んでね」より「お友達がびっくりするから、並んでね」。理由を1秒だけ足すだけで、3歳児でも受け取りやすくなります。
- 1〜2歳児:「熱いから、触らないでね」
- 3〜4歳児:「お友達が痛い気持ちになるから、押さないでね」
- 5歳児:「みんなで一緒におやつを食べたいから、座って待ってくれる?」
長い説教は要りません。理由は1つ、1秒で。命令の数を減らさず、命令の質を変える練習です。子どもが言うことを聞かないと感じたときにも書きましたが、伝わるかどうかは声の量ではなく、声の前と声の中身で決まります。
型3. 次の行動を提示する
叱るときに「これをやめて」だけで終わると、子どもの体は止まったまま動けなくなります。代わりに、いま取れる別の行動を一緒に提示します。
- 1〜2歳児:「お友達のおもちゃは触らないよ。先生と一緒に、こっちの電車で遊ぼうか」
- 3〜4歳児:「走らないよ。先生と一緒にゆっくり歩こうね」
- 5歳児:「いま順番待ちだから、その間に絵本コーナーで読んでてくれる?」
子どもは「やめる」より「次に動く」のほうが、ずっと得意です。止めるだけで終わる叱り方は、子どもの体を行き場のない状態に置きます。次の行き先を一緒に渡すだけで、叱った後の空気が固くなりません。
叱った後にやること
叱る瞬間より、叱った後の3分のほうが、現場では大事です。叱り方を整えても、その後の関わりが抜けると、子どもの中に「叱られた」だけが残ります。
叱った直後、子どもはたいてい体がこわばっています。涙が出る子、固まる子、笑ってごまかす子、それぞれの形で。そこに「分かった?」と確認を重ねると、子どもは余計に動けなくなります。
代わりに、感情の置き場所を渡します。「びっくりしたね」「悲しかったね」のように、子ども側に起きていた気持ちにラベルを1つだけ付けます。背中にそっと手を当てる、横に座る、抱っこを受け止める。言葉より身体のサインのほうが、3分後の子どもの落ち着き方には効きます。
叱るのが上手な保育士は、叱り方が上手いのではなく、叱った後の関わりが丁寧です。叱る場面そのものを完璧にしようとしなくて大丈夫です。叱った後の3分を、自分の余裕の範囲で整える練習のほうが、長く効きます。
「何度言っても響かない」時に確かめること
同じ叱り方をしているのに、ある子にだけ届かない場面があります。「聞いていない」「反抗的」と感じる前に、子どもの側の事情を確かめてみてください。
1. 聴覚処理の癖
長い文を一度に聞いて理解するのが苦手な子は、一定の割合でいます。「片付けて、手を洗って、椅子に座って」を一息で言うと、3つのうち1つしか残らないことがあります。1指示1動作に区切るだけで、響き方が変わる場合があります。
2. 指示の長さ
1回の叱り言葉が15秒を超えると、子どもの集中は途切れます。長い説教は、子どもの中で前半が消えていきます。叱る内容を1〜2文に絞る練習が、まず効きます。
3. 集団規模と発達段階のずれ
3歳児に20人一斉で叱り言葉を出すと、構造的に届きにくい場面があります。叱るときは個別、伝えるときは集団、と切り分けるだけで、子どもの受け取り方が変わります。
響かない理由は、性格やわがままではなく、処理の癖や発達段階に紐づいていることがあります。線引きについては発達特性を持つ子への保育士の関わり方にもう少し書きました。「この子はもしかして」と思ったときに、断定ではなく観察の視点を持つための入口になります。
「叱る自分が嫌になる」ときの整え方
叱り方を整える話を続けてきましたが、いちばん見落とされやすいのは、叱る側の自分の状態です。
自分の体力・睡眠・職場の空気が削れているとき、人はどうしても怒りやすくなります。叱り方の型を覚えても、土台がすり減っていれば、その型は使えません。叱るのが下手な自分を責める前に、まず自分の状態を確かめてください。
朝、出勤前に「今日は怒鳴らない」と決意するより、夜、眠る前に翌日の余白を1つ作るほうが効きます。仕事の持ち帰りを1つ減らす、明日の準備を3つだけにする、退勤後の30分は自分のためだけに使う。叱り方の改善は、自分の余白の確保とセットでしか進みません。
新人のあなたが「叱る自分が嫌い」と感じているなら、その感覚は鈍っていない証拠です。保育士1年目を生き延びるための手紙に、自分を責める癖をほぐすための話を書きました。夜の自分の心を守るところから、明日の叱り方が変わり始めます。
子どもを叱ったら泣かれてしまったときは、どうすればよいですか?
結論から書きます。「泣かせない」を目的にせず、「泣いた後の関わり」を整えるほうに時間を使ってください。
泣くことは、子どもにとって感情を外に出す自然な反応です。泣かないように叱ろうとすると、叱る側の言葉が回りくどくなり、結果として何も伝わりません。泣いてもよい、と最初から織り込んだうえで、その後の3分にエネルギーを残します。
泣いた後にやることは2つです。1つは、安全な距離を保ったまま「悲しかったね」と気持ちにラベルを付けること。もう1つは、落ち着いてから「次はどうしようか」を一緒に考えることです。叱った内容を泣いている最中に重ねないでください。子どもの脳は、泣いている間は受け取りモードに入っていません。
泣いた後の関わり方そのものは、子どもとの向き合い方に詳しく書いています。「叱る場面」だけを切り出して上手くなろうとせず、向き合い方の中の一場面として置いてみてください。
まとめ
「子どもの叱り方が分からない」と感じている保育士のあなたに、覚えておいてほしいことは4つです。
- 怒るは大人の主語、叱るは子どもの主語。出す前に一度、自分の主語を確かめる
- 叱るときは「行動を限定」「理由を1秒」「次の行動を提示」の3つの型を使う
- 叱る瞬間より、叱った後の3分を整えるほうが長く効く
- 響かない時は、子どもの処理の癖と自分の余白の両方を確かめる
叱り方が上手な保育士は、強い言葉を持っているのではなく、叱る前と叱った後を丁寧に扱える人です。声の量を増やすより、声を出す前と声を出した後を整える。今日の午後、子どもを叱る前にひと呼吸入れるところから、試してみてください。
「子どもの叱り方」によくある質問
怒ると叱るの違いを、子どもに分かるように説明できないのですが、どうすればいいですか?
子どもに説明する必要はなく、保育士の側で「主語」を変える練習をするだけで十分です。
怒るは大人の感情を出す行為、叱るは子どもの次の行動を渡す行為です。声を出す前に「これは私の怒りを発散したいだけか、子どもに次の行動を渡したいのか」を1秒だけ自問してみてください。同じ言葉でも、主語が変われば届き方が変わります。
叱った後にすぐ次の場面が来てしまい、フォローの時間が取れません。どうすればいいですか?
3分のフォローが取れないなら、30秒でできることに絞って大丈夫です。
叱った直後に背中にそっと手を置く、横に1秒しゃがむ、視線を1回合わせ直す。これだけでも子どもの体のこわばりはほどけます。完璧な振り返りより、身体のサインを1つ渡すほうが、その日のうちに効きます。集団保育の現場で5分のフォロー時間を毎回確保するのは現実的ではないので、30秒設計で運用してください。
叱り方を改善しようとすると、自分が疲れてしまいます。どこから始めればいいですか?
叱り方そのものを変える前に、自分の余白を1つ作るところから始めてください。
叱り方の型は、自分に余裕があるときしか使えません。睡眠・職場の空気・持ち帰り仕事のどれかを1つだけ減らしてから、型の練習を始めるほうが続きます。「叱り方が下手な自分」を直そうとして燃え尽きる人を、現場で何度も見ました。自分のケアと叱り方の改善は、必ずセットで進めてください。